イタリア トスカーナの地に降りたって幾日。
雨の音で目覚めることも慣れてきたカヤック アートメーター店長 冨田です。
そう、この第2陣には雨男雨女が晴れ渡っていたイタリア上空に雲を呼び集め、そして到着からの4日間、長靴の形をしたこの大地に雨をもたらした。時代さえ間違えていなければシャーマンとして隣のクニから「あげるよー」とか、言われて角印とかもらっていたんだと思うと口惜しいばかりである。だって、金印ですよ?ゴム印とはわけが違う。
さておき、旅する支社の休日。
旅すると、たいていの時間をcafeで費やすワタクシ。
流れる空気、さざめく人の声、街の香り・・・
その場所でたった一杯のために15時間の空の旅もしたことがある。
いつもどおりの本と怒号のような雨にすっかりくたびれた地図を片手にお茶するためにcafeを探す。
が、期待ははずれ。いくつか目星をつけていたcafeは日曜とあってあっさり休み肩透かし。透かされた肩で風を切りながら、観光地域へ向かう。
ヴェッキオ宮の正面に立つ創業1872年の老舗「リヴォワール」での一杯を求めて。
かの映画「ハンニバル」でレクター博士がワインを飲んでいたcafeであるリヴォワール。ダビデ像の隆々肉体に目を奪われている観光客の間をすり抜けて、cafeへ入り込む。
注文はこの店の代表格、ホットチョコレート。
生クリームもつけたもので。
でてきたそれは、ワタクシの親指幅3つは余裕にあるであろう生クリーム。その生クリームの山を一緒に出てきた銀の匙ですくう、口に運ぶ、すかさず食む。舌の上をトロケルクリームの先、柔らかな乳の甘さが広がる。
あん、美味しい。
にたつきながら、しばし幸せを抱きしめていると匙で入った生クリームの亀裂から溢れ出すチョコレート汁
・・・げっ。
それはかつてベスビオ火山から流れ出したそれのように生クリームの大地に流れ込むチョコレート火砕流。
慌てて口で流れを止める姿は、注ぎすぎたビールの泡を止める風情と同じ。ああ、イタリアかガード下かわからなくなってくる。
ともあれ、名物チョコレートに取り掛かる。
生クリームの火口を広げて、飲む。熱。驚き、飲み込む。喉、熱。喉元を過ぎた熱さは、忘れないほど熱い。生クリームの保温力は魔法瓶より魔法的。弱気な僕らは(ひとりしかいないですが)、銀の匙でチョコレートをすくい、飲み込んだ。
んっま。
濃厚な美味しさが口へと滑り込んでいく。
かといって、ドロリとしているわけでもない。甘さ加減は、大人ビター。生クリームを合わせてルネッサンス。いや、懐古主義でもなんでもなくて、ただ、嬉しくて。ああ、至極が鼻から抜けてくる。
名物を堪能したところで、広げても15cmにも満たない左手の中に本を広げる。
タイトルは「メディチ家」。その起源から、いかに台頭をし、そして敗退したかをメディチ一家が築き上げた場所を目の前にして紐解いていく。
本を閉じ、cafe時間を終えると自然とコジモ一世が眠る教会へ足が向く。
華美な墓碑はなにもなく、ただ静かに直線的。
教会内部にあるミケランジェロが作った像は、意図的な完成形なのか、細部が石の質感を残している。彼が最後に作ったピエタ像にただおぼろげながら通じるものがあるのか、なんざ思いながら。
そして、締めくくりはピッティ宮。それは最後のアンナ・マリア・ルイーザが終焉を迎えた場所。
「これらの財産はフィレンツェ市民の宝でもあり、 フィレンツェ及びトスカナ大公国に利益をもたらすものでるから、 領地より持ち出してはなりません。」
この彼女からの遺言があるからこそ、今だにフィレンツェが世界各地から多くの人を呼び寄せる。彼女の人徳や先見という言葉だけではくくれない。
ピッティ宮を出ると、傾き始めた日差しを浴びたブラッドオレンジ色の屋根に浮かぶフィレンツェが広がっている。数百年前もさほど変わらない風景だったのか。しばらく心が時間を越えた旅に出ていた。
そんな休日。

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